和名:ハリヨ
学名:Gasterosteus aculeatus ssp.
英名:Smallhead stickleback
分布域:滋賀県東部及び岐阜県西部，三重県（絶滅），他地域への移植がみられる．
形態 :成魚体長5�兪宛紂で愽瑤�3本，腹部に1対，臀鰭直前に1本の発達した棘条を持つ．
トゲウオ科の特徴として鱗は持たないが，ハリヨは特に前方にのみ，トゲウオ科に特有の鱗板と呼ばれる大きい鱗を数枚有する．
体色は蒼，もしくは緑を基調とし表面を雲状模様が覆う．なおこの雲状模様にて個体の識別が可能である．いずれの色彩も金属光沢を持つ．
なお，いずれの特徴も地域によって大きな差異が見られる．
========================================================================================
・学名について
ハリヨは分類学的にはイトヨGasterosteus aculeatusの地域集団として扱われてきた．そのため形態タイプとして
leiurusを付与されたり，また種や亜種レベルとしてGasterosteus microcephalusやGasterosteus aculeatus microcephalus
などが用いられてきた．特にGasterosteus microcephalusについては今でも多くの文献やサイト等で見る機会が多い．
しかしながら，これ等の名称は全てヨーロッパ及び北米に分布する淡水型集団に対して用いられているものであり，日本のハリヨに対して
用いるのは不適であると考えられている．よって本サイトではssp=亜種として表記した．今後の分類の整備が期待される．
・滋賀のハリヨと岐阜のハリヨ
現在滋賀県と岐阜県にのみ分布するハリヨであるが，これは伊吹山地を分水嶺としてそれぞれ大きな差異を有する（なお，三重に関しては
岐阜の下流部に位置し系統的には同一とされる).それぞれは滋賀県の近江個体群，岐阜県の美濃個体群と呼ばれる．これは遺伝的にも
明瞭な差別化が可能である．
まず，一般的に，近江個体群は美濃個体群と比較すると，まず体長が平均的に大きくスレンダーな傾向にあり，体表側面の鱗板は有意に多い．
更には尾柄部において近江個体群にのみ痕跡的に鱗板が確認される．ハリヨ体表側面の雲状模様は近江個体群が緑を基調とした細かく不鮮明
であるのに対し，美濃個体群では赤色と青色を基調とした光沢模様が見受けられる．ほかにも繁殖形態における差異，例えば繁殖期の雄のなわばり
の大きさは，近江個体群と比較して美濃個体群の方が大きい傾向にあり，一巣卵数も美濃個体群の方が多い．孵化が成功した場合，営巣期間は
美濃個体群の方が長い．なお，これらの差異は両者の生息環境の違いに起因すると言われている．
・よくある質問その� 悒魯螢茲辰匿�べれる？ 美味しいの？』
これは本当に，特に学生大会などで聞かれる頻度の高い質問である．しかしながら，現在法整備が行われ食用での消費は規制（？）されている
ため実体験から応対できない歯痒い質問である．
ただ，過去に食べたことがある方のお話や文献など，また食べられるトゲウオ科（例えば航海型のイトヨ）の情報を統括して．
『美味しいらしい』と回答させていただいている．上品な白身（？）で，たまに棘が口内に刺さるとのことである．
どうやら食用として重宝されていたというわけではなさそうだが，滋賀県では昔よりハリヨを『はりんこ』と呼んで身近な美しい魚として，
親しみを持った存在であった．なぜ食用でもない魚にかつてより目がむけられてきたのか．これは，おそらく湧水にのに局所的に生息するハリヨが，
いわばライフラインの一つである水，湧水の象徴的な存在であったからではないだろうかと考えている．
実際，50年くらい前までは，地域の水汲み場にハリヨがたくさん居たとのお話を様々な方からお聞きする．現在足を運んでみても，綺麗に四隅が
コンクリートで固められ，沢山のコイ（もちろん飼育型である）が泳いでいるのであるが・・・．
また，これはハリヨではなくお隣の京都府にて生息していたとされる絶滅種，ミナミトミヨPungitius kaibaraeについてであるが，
以前はミナミトミヨを乾燥させて平らにし，栞（！）として使用していたという．
食用でもない魚に様々な人々とのかかわりが見られる．これは即ち，最も人間の生活圏に近いところのハリヨが，古来よりbeautiful little fish
として特別視されてきたことの表れだったのではないだろうか．
・よくある質問その�◆悒魯螢茲鮗蕕辰堂燭琉嫐�があるの？ 別に絶滅してもよくない？』
実際過去に何度か質問していただいたことがある．保全をやる上において，研究者はあくまでも
水中翼
であるから，もっとも身近で，主翼を担う地域の方々
が抱く疑問として非常に妥当なものである．我々（おこがましいですが）はこの疑念に100パーセント応対しなければならないと考える．
しかしながら，なぜ希少な動植物を，わざわざ多大な労力を払ってまで守るのだろうか？ 以下は私の持論であるため，あくまでも一つの意見としていただきたい．
大きく分けて，ハリヨ含め希少であったり絶滅の危機に瀕している生物を守るのは，生態系のバランスを維持することと，遺伝的資源とするため
だと考える．くれぐれも，自然を自然のままになどという論理を抱いてはならない．多少逸脱している部分はあるが人間の活動もまた自然なのである．
自然は自然のままにという思想自体が既に人間を特別視している証拠たりえるのである．真に目指すべきは我々の生活が生態系においてニッチを獲得することである．
さて，前者についてであるが，生態系というもの自体は，決して脆弱なものでは断じてないと考えられる．すくなくとも，生態系が消滅するというのは
構成する生物相が皆無になったときであろうから，そんなことはおそらくないだろう．たとえ6度目の大量絶滅が来たとて，必ず生態系は復活する．勿論
星が無くなるとか宇宙規模になるとまた話が変わってくるが・・・．
では，何が問題なのかというと，生態系が崩れたバランスを立て直す際に我々人間が受ける影響が問題なのである．
例えば有名な話，カリフォルニアのラッコで考えてみると．ラッコが減少したことにより，まずウニなどが増加する．するとジャイアントケルプが大量に捕食され
減少する．ここまでがよく教科書に載っているが，その先はどうだろうか．様々なことが考えられるが，まずジャイアントケルプが減少したためウニの餌が減少し，
ウニの数が減少することも考えられる．そしてジャイアントケルプが復活する？ いや，もしかしたら餌の減少に困ったウニが新たな餌となる別の何かを
発見し，更に生息数を増大させる可能性も考えれられる．この場合ジャイアントケルプは絶滅するだろう．他にも様々な現象が考えられる．そう，この様々な
リアクションこそが生態系の事故修復（自浄？）作用である．これには殆どと言ってよいほど，必ずいずれかの種の減少であったり，増加が付随する．
これが我々の生活にとってただいな影響になりえるのである．もし減少する種が我々の生活に深く関わっていたら？ という話である．しかし，だからといって
影響がどのように及ぶかなんてものは，残念ながら今の科学では全く予想がつかないものであるし，それだけは今後も変わらないのではないだろうか．
なんといっても，不確定要素が多すぎるからである．即ち，何が起こるかわからないのである．これは保全の上で非常に重要なワードだと考えている．
生態系が崩れると何が起こるかわからない．だから，上手い具合にバランスが保たれている現状を維持するのではないだろうか？
後者について，これは生物を一つの資源として捉えたものである．ここ100年間において，生物学分野におけるブレイクスルーというのは何があるだろうか？
間違いなくその一つに遺伝子レベルでのアプローチが可能になったことが挙げられる．すると，途端にあらゆる生物がそれぞれ独自のDNAを持っているのだから，
それは立派な資源といえるのではないだろうか．その中にどれだけ有用な要素があるのだろうか．私は今後，各国が遺伝子資源を競争する社会が来るものと予想
している．実際，例えばオワンクラゲのGFPによって遺伝子の分野は飛躍したりしている．こういった1分子だったりするものがまだどこかの，何かの生物が有している可能性は
きわめて高いだろう．
以上の二つが大きな理由ではあるが，一番良いのは，単純に小さな美しい魚と共に在ろうと，ふと思うことなのではないか・・・と．
森羅万象に理由を求めることに意味はあるのか？ などと思ったりもする．
|
